記録ブックには、漁の写真にまじって、こんな一枚が残っていました。橋の上に止まったトラックと、そこから川へ垂れる青いホース。魚を獲る写真ではなく、魚を返す写真です。

運んで、流す
放流の朝は、養魚場へ稚魚を受け取りに行くところから始まります。袋詰めにした稚魚をトラックに積み込み、放流地点まで運ぶ。橋の上にトラックを止め、ホースを川面へ垂らして、水ごと流し入れる。
写真で見ると、ずいぶん豪快な作業に見えます。けれど扱っているのは、これです。


手のひらに一匹、すっぽり収まる大きさです。これが何百、何千と川へ入っていく。放流という言葉から受ける印象より、ずっと小さく、ずっと心もとない。だからこそ、流し込む場所や水温を慎重に選びます。
「アユさん大きくなってね」
子吉川では、組合の放流とは別に、地域の団体が主催する放流体験も行われています。記録ブックには、その様子を伝える記事も貼られていました。
由利小学校の1・2年生41人が、市川西の水辺プラザ近くの子吉川で、アユの稚魚約600匹を放流した日のことです。児童はライフジャケットを着け、バケツに入れた稚魚を川岸まで運びました。元気に泳ぎ回る稚魚に初めは戸惑っていたものの、やがて1匹ずつつかんではそっと流し、「アユさん大きくなってね」「バイバイ」と声を掛けていたといいます。
1年生の児童は、ぬるぬるして気持ちよかった、つかむのはちょっと難しかった、と話したそうです。魚が「ぬるぬるしている」と知ること。放流体験でいちばん持ち帰ってほしいのは、たぶんそこです。
獲る組織が、返す組織でもある
漁業協同組合というと、魚を獲る組織だと思われがちです。実際には、放流と保護に費やす時間のほうが長いかもしれません。稚魚を買い、運び、放し、その稚魚を食べに来る鳥を見張り、川を掃除する。
この春に放したアユが、夏に育ち、秋に川を下る。その落ちアユが産んだ卵から、また次の年が始まります。手のひらに乗る大きさから、毎年やり直しているわけです。
組合に残る記録を、これから少しずつ紹介していきます。当時の写真やお話をお持ちの方は、ぜひお知らせください。この記事にも追記していきます。
出典・参考
- 秋田魁新報(掲載日不明)「『アユさん大きくなってね』 子吉川 由利小児童が放流体験」
- 組合の記録写真(放流作業・稚魚)
- 組合長 保管の記録ブック
- ※ 新聞記事は事実部分を要約して構成しています。紙面および紙面の写真は掲載していません。
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