組合長の記録ブックに綴じられていたのは、漁の記事ばかりではありませんでした。川そのものを調べた記録も、間に挟まっています。子吉川にどんな魚がいて、どれだけいるのか。読んでみると、この川の姿がかなりはっきり見えてきます。
確認された魚は、50種
国土交通省が行っている「河川水辺の国勢調査」の2010年度の結果によれば、子吉川で確認された魚類は50種にのぼります。
- 確認された魚類 50種
- うち環境省のレッドリストに載る絶滅危惧種 12種
- 最も多いのは ウグイとアユ
50種という数字は、川の規模を考えればかなりのものです。海から遡ってくる魚、上流で一生を過ごす魚、河口の汽水域にいる魚。鳥海山の伏流水から日本海まで、標高差のある水がひと続きになっていることが、この多さを支えています。
同時に、そのうち12種が絶滅のおそれのある魚だということも、この数字は伝えています。豊かさと危うさが、同じ一覧に並んでいるわけです。
春はモクズガニから
子吉川の一年は、春のモクズガニ漁から動き出します。解禁は4月1日。当組合の副組合長は、この日に合わせてかご網を16個仕掛け、長年この漁を続けてきました。
地域では毎年「子吉川ガニまつり」が開かれ、園児がカニやコイをつかみ取りする催しも行われてきました。捕った魚を見せるだけでなく、手で触らせるところまでやる。それが、この行事がずっと続いてきた理由なのだと思います。
その副組合長は、記事の中でこう語っていました。男の子でも魚を怖がって触れない子がいる、これは大人の責任だ、と。子どもを責める言葉ではなく、触れる場をつくってこなかった側の話としてこの一言があることに、はっとさせられます。
『子吉川風土誌』という本
子吉川には、この川を記録することに人生を使った人がいました。高野喜代一さん(1923〜2008)です。著書『子吉川風土誌』には、川の生き物や、川とともにあった暮らしが書き留められています。
いま私たちが記録ブックを開いて記事を書いているのも、たどってみれば同じ流れの中にあります。誰かが書き残さなければ、川で起きたことは残らない。50種という数字も、誰かが数えたから数字になりました。
数えることの意味
川の環境については、学識者を交えた懇談会の場も設けられ、専門家が調査や保全について意見を交わしています。組合が続けてきた漁の記録も、じつはその材料のひとつです。追い込み漁の漁獲量は子吉川の「環境指標」でもある、と新聞は書いていました(700匹から、2匹へ)。
50種の名簿は、自慢の一覧ではありません。守るべきものの一覧です。そして12という数字は、そのうちどれだけが崖の縁にいるかを示しています。数えるという地味な仕事が、いちばん確かな記録になります。
組合に残る記録を、これから少しずつ紹介していきます。当時の写真やお話をお持ちの方は、ぜひお知らせください。この記事にも追記していきます。
出典・参考
- 秋田魁新報「子吉川の四季」(2015年)川漁が運ぶ恵みと文化
- 国土交通省「河川水辺の国勢調査」2010年度(記事中の引用による)
- 高野喜代一『子吉川風土誌』
- 組合長 保管の記録ブック
- ※ 新聞記事は事実部分を要約して構成しています。紙面および紙面の写真は掲載していません。
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