組合長の記録ブックには、新聞の切り抜きと事業報告書が何枚も貼られています。そのうちの多くが、同じ漁を伝えるものでした。真冬の子吉川で行われる「追い込み漁」です。年をまたいで並べてみると、一年ごとの当たり外れと、その奥にある長い変化とが、両方見えてきました。

昭和20年代から、そして1964年
新聞記事によれば、この漁は昭和20年代ごろから薬師堂の地区で行われてきました。そして1964(昭和39)年に当組合が事業として始め、のちに子吉川地区の漁族保護組合へ引き継がれています。保護組合の上部組織が当組合にあたります。
記録ブックには昭和32年頃の漁の写真も残っていました(舟を組み、川底を叩く ― 昭和32年頃の「鯉追い漁」)。集落で受け継がれてきた漁が、1964年に組合の事業になった。そういう順序です。
目的は当時から変わりません。漁法の継承と、組合員の親睦。魚を獲ることそのものより、獲り方を次の代へ渡すことに重心があります。
漁のしかた
行うのは水温が下がり、川魚がよどみに集まって動きが鈍くなる2月です。真冬の子吉川の水温は3度前後。逆に夏場は魚の動きが素早く、網に触れた瞬間に跳ね上がって逃げてしまうため、この漁には向かないとされます。
- 由利本荘市薬師堂の水門付近、川幅70メートルほどの場所を選ぶ
- 縦約2メートル、横30〜70メートルの刺し網を川幅いっぱいに張る
- 組合員が川舟に分乗し、網の50〜100メートル上流に着く
- 舟を横一直線に並べ、長さ4〜4.5メートルの木や竹のさおで川底をつつき、川面をたたく
- 水音に驚いた魚を、少しずつ網へ追い込んでいく
豊漁の鍵を握るのは操縦者同士の意思疎通だといいます。舟の位置、叩く間合い、進む速さ。声を掛け合って呼吸を合わせなければ、魚は舟と舟のあいだを抜けていってしまいます。

記録に残る7年
新聞と組合の報告書が伝えた7回分を、年順に並べます。
- 2011年2月16日 組合員20人。マゴイ・ニゴイ・ソウギョなど38匹。うちマゴイ16匹、最大は体長90センチ
- 2012年2月25日 12人・舟2隻。川面の氷が解けず例年より2週間遅い実施。前日の雨で流れが速く水は濁り、4度網を入れて捕れたのは2匹だけ
- 2013年2月10日 15人・舟3隻。マゴイ16匹と、60センチ超を含むニゴイ50匹以上。水揚げは80キロを超えた
- 2014年2月9日 約20人・舟3隻。水温4度。マゴイやニゴイなど19匹。30代の組合員が初めて参加した
- 2015年2月8日 30代から80代までの15人・舟3隻。水温3度。2時間半の奮戦のすえ、3回目でようやく大漁となり、70センチのマゴイを含む12匹
- 2017年2月18日 前日の雨で融雪が激しく、本流は水位も流速も高すぎて漁ができず。急きょ支流2カ所に切り替え、約80センチと約60センチのマゴイ2匹
- 2018年2月11日 7人。氷片が流れるなか、川幅4.5メートルの水門付近で実施。40分ほどで約70センチのマゴイと、30センチほどのマブナ
2匹の翌年に、70匹
並べてみて驚くのは、2012年と2013年が隣り合っていることです。2匹しか掛からなかった年の翌年に、80キロを超える大漁がある。同じ川の、同じ場所で、同じ手順の漁です。
違ったのは、川のほうでした。氷の解け方、前日の雨、水の濁り、水温。人の側にできることは、条件を読んで日を選ぶことくらいしかありません。実際、組合長は出漁日を見極めるため、2月は毎日、川の様子をうかがうといいます。雪の日も、川を見に行く。

そして、700匹の年があった
記録の中に、はっとする一行がありました。2013年の大漁を報じた記事が、その15年ほど前の紙面を引いていたのです。そこにはこう記されていました。約1メートルのソウギョをはじめ、ウグイ、ニゴイ、コイなどで700匹近く。しかもそれは「まずまずだった」という評価でした。
80キロ超で近年にない豊漁とされた2013年でさえ、匹数ではその10分の1ほどにあたります。そして2017年、2018年は2匹です。
新聞は、追い込み漁の漁獲量は子吉川の「環境指標」でもある、と書いていました。丸々と太ったコイが揚がる年は、それだけ川が豊かだということ。裏を返せば、獲れなくなっていくことは、川からの報せでもあります。
組合がこの記録を残してきた意味は、たぶんここにあります。獲れた数を誇るためではなく、変化を測るために数えてきた。70年分の数字が並んで初めて見えるものが、確かにあります。
それでも毎年、舟を出す
2匹に終わった年、組合長は「1年でも休むと勘が鈍る」と語り、条件の整う時季を狙って続けたいと巻き返しを誓っています。獲れる年だけ出る漁であれば、60年も続いてはいないはずです。
2018年、悪天候のなかで漁を終えた組合長は、事故なく漁ができたことを喜び、なんとか後継者を育てて次代に受け継いでいきたいと話しています。2014年には30代の組合員が初参加し、2015年には30代から80代までが同じ舟に乗りました。数が獲れない年にも、渡すべきものは渡されています。
子どもたちが、舟に乗った日
2013年10月23日には、地元の子吉小学校の児童を招いて体験学習が行われました。地域に伝わる漁法を学ばせたいという学校の要望を受け、保護組合が秋に特別に開いたものです。
児童は川舟に乗り、実際にさおを操って追い込み漁に挑戦しました。この日の漁獲はゼロ。それでも「川舟に乗るのは初めてで興奮した」「川にはめったに来ないから楽しい」と、子どもたちは声を弾ませたと伝えられています。
漁獲ゼロの体験学習というのは、考えてみればいちばん正直な形なのかもしれません。この漁は、そもそもそういうものだからです。
漁のあとに
水揚げされたマゴイやニゴイは、近くの公民館へ運ばれます。刺し身、洗い、輪切りにして煮込んだ鯉濃、みそ煮。漁の後に懇親会が開かれ、組合員が川の冬の幸を囲む。この時季に捕れる川魚は身が締まって歯応えもよく、絶品だといいます。
獲って、食べて、また来年。追い込み漁は、そこまで含めて一日の行事です。
組合に残る記録を、これから少しずつ紹介していきます。当時の写真やお話をお持ちの方は、ぜひお知らせください。この記事にも追記していきます。
出典・参考
- 秋田魁新報 2011年(平成23年)2月17日付「川面たたき『追い込み漁』 子吉川 数年ぶり大物に笑顔」
- 秋田魁新報 2012年2月(掲載日不明)「子吉川で『追い込み漁』 さお操り魚を誘導」
- 秋田魁新報 2013年2月(掲載日不明)「由利本荘・子吉川 伝統追い込み漁 大物、大漁に沸く」
- 秋田魁新報由利本荘ブロック会「今月のイチオシSHOT 追い込み漁、大漁に沸く」(2013年)
- 秋田魁新報 2013年(掲載日不明)「水とともに」子吉川の追い込み漁
- 秋田魁新報 2014年(平成26年)2月10日付「由利本荘・子吉川 伝統『追い込み漁』 川底つつき魚誘導」
- 秋田魁新報 2015年(平成27年)2月12日付「川底つつき網へ誘導 大物コイ捕獲に歓声」
- 読売新聞 2015年(平成27年)2月10日付「伝統 コイの追い込み漁」
- 秋田魁新報 2018年(平成30年)2月12日付「川底つつきコイ捕獲 子吉川で『追い込み漁』」
- 子吉川漁族保護組合「事業実施報告書」(2014年2月9日実施分/2017年2月18日実施分)
- 組合の記録写真(2018年2月11日撮影ほか)
- 組合長 保管の記録ブック
- ※ 新聞記事は事実部分を要約して構成しています。紙面および紙面の写真は掲載していません。2012年・2013年の実施年は、他の記事および機関誌の記載と突き合わせて特定しました。
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